プリンタニア・ニッポン 1【電子限定特典付き】【電子書籍】[ 迷子 ]
あらすじ・内容
プリンターから生まれた新種の生物と同居はじめました。
いつかどこかの未来で、生体プリンターから出力された
すこしふしぎ(SF)な生物と暮らすショートコミック。
感想
偶然生まれてしまった生き物とのほのぼの漫画です。悪人も嫌な人間も出てこない日常系。ただし、あらすじにある生体プリンターという言葉からも察せられるように独特の世界観を持った近未来のお話です。
プリンタニア・ニッポンとの出会い
本当は柴犬が欲しかった佐藤の生体プリンタが生み出したのは見たこともない新種の生物。他の家庭からも沢山生まれたようで、のちにプリンタニア・ニッポンと名づけられました。
1話目はプリンタニア・ニッポンが生まれた理由(佐藤が知りえる範囲で)と、一緒に暮らすようになるところまでの説明がされるのですが、もう構成がすごい。短い1話分の中にさらっと世界観が織り込まれていて、ほのぼのした話なのに「ん?この社会、何?大丈夫?」と読者が混乱しない程度に不穏さがあり、それでいて話自体は淡々とコミカルなうえ分かりやすい。
登場人物の佐藤と友人・塩野がいいやつで、当然のようにプリンタニアをペットとして受け入れているので不快感もありませんでした。生体プリンタなんてものを使っているので命を軽んじる価値観かと思いきや全くそんなことはありません。明言されていないですが、おそらく柴犬(+その他ペットになりうる生き物)は絶滅していて生体プリンタでないと入手できないような、、、
登場人物と世界観の作りこみ
コミカルな日常漫画ですが、回を重ねながら世界観や人物像を説明する構成はお見事。口下手な登場人物が多いし詳細に説明してくれるわけではないのにキャラクターの価値観とか悩みとかはスパッとわかりやすい。世界観はかなりしっかり練りこまれているのが徐々に明らかになっていきますが、1巻ではまだよくわからないという感じですかね。ただの近未来ではなさそう。
1巻は登場人物の掘り下げに重点が置かれています。みんな普通にいい奴らなので読んでて気持ちがいい。プリンタニア・ニッポンはかわいいしね!
あと、瀬田君のセルフ社畜精神が共感できすぎて、瀬田君を励ます佐藤と塩田に一緒になって励まされました。健康第一で頑張ってほしい。
おまけ漫画の佐藤と塩野の出会いでちょっと泣いてしまいました。ただの腐れ縁じゃない、小さい時からちゃんと友達なのがよくわかるし、おまけまで読んでから本編を読み直すと佐藤と塩野はお互いに本当いい友人だよなとしみじみする。あれはおまけではないのでは、、、
デストピアとは?
多くのレビューでデストピアと表現されるこの漫画。私はこれがデストピアだとは思いませんが、非常に考えさせられました。デストピアとそうでない社会の違いって何?この社会は一見デストピアに見えるけど、なんで私は違うって思ったの?と。
人間が、「今の私たちが当然と思っているよりは」制限された生活をしているのは確かのようです。日々のちょっとしたことから仕事の選択においても。「評議会の許可がないから」という言葉も作品中に何度も出てきました。
しかし、評議会は「評議会の決定が理不尽だと思えば怒るべき」と市民に啓蒙しているような描写がありましたし、人の暮らしに介入してくる「コンサル」たちは人間の決定を尊重していて無理に押し付けることはできず(健康などを害さない限り)、まさに主人公の佐藤も「一人で何でもやってしまうからコンサルが佐藤を構えていない」と評されていました。
仕事の選択にしても、無理やり働かされるって描写が一回もない。制限の基準がはっきり示されているだけで、身体的、精神的、あるいは技能的(実績)に無理だと言われない限り自由な仕事についていて、それって私たちの社会と同じですよね。むしろそんなにはっきりと、明確な基準で示してくれるだけ善良では?キャリアアップも望めばできるのが当たり前みたいだし、私はむしろこの社会で暮らしたい。
今の社会においても、自由って何でもかんでも好きにしていいってことではなくて、色んな制限があります。自由への制限は時代や社会的背景によって大きく異なりますが、そこに暮らす人にとっては常識です。例えば、アレルギーのある人がいて、その食べ物を危ないからといって遠ざけることは「制限」ですが、それはその人を守るための措置です。でも、アレルギーというものが一般的になっていなかった昔の人々から見れば理不尽な「管理」と見えるかもしれません。
プリンタニア・ニッポンの社会の評議会は誰も誰かから搾取しようとはしていないし、市民側に評議会を疑い、意見する機会を与えている時点でデストピアとは言えないと思いました。ただ、人が快適な社会を目指していくと、究極の形は一歩間違うとデストピアに近くなるのかなーという気付きを得た漫画でした。
ご興味のある方はぜひ手に取ってみてください!
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